イスラム文化
特色
広大な領域を支配したイスラム帝国は、古代世界におけるほとんどの先進文化を融合して新しく発展させて世界文化を創り上げた。またアラブ人は商業活動を通じて世界最高水準の文化を世界各地に伝えた。また各国の古典が翻訳され、特にギリシアの古典文化がイスラムを通じてヨーロッパに逆輸入され、ルネッサンスの下地を作った。
イスラムでは学問を「アラビアの学問」と「外来の学問」に分けた。アラビアの学問とは、コーランの研究を中心にして発達した学問で、神学・法学・文法学などである。外来の学問とは、ギリシア哲学や数学・科学・天文学・医学などである。こうした学問研究の場として、アッバース朝からカイロにあるアズハル大学を初め、セルジューク朝のニザーム=アル=ムルクによって建てられたニザーミヤ学院が建てられた。
学問・芸術
イスラムの哲学・神学は、ギリシア哲学特にアリストテレスの哲学を基礎として発達した。イブン=シーナ(アヴィケンナ)やイブン=ルシュド(アヴェロエス)らが哲学者として活躍した。神学では、神秘主義(スーフィズム)の先駆となったガザーリーがでている。
歴史家としては14世紀にでたイブン=ハルドゥーンが有名である。チュニス出身の彼は、生涯様々な国の高官を渡り歩き、ダマスクスを陥落させたティムールも名声を聞きつけ面会しているほどである。その著書「歴史序説」では、遊牧民と定住民の関係を中心に、王朝興亡の歴史に法則性があることを論じている。地理学者としては9世紀に生まれたイブン=フルダーベドや大旅行家で元代の中国にも訪れ、「三大陸周遊記」を書いたイブン=バットゥータが有名である。
自然科学では、アラビア人が優れた業績を残している。数学ではギリシア・インドの数学を学び発展させ、アラビア数字を作った。代数では9世紀にでたフワーリズミー、三角法ではバッターニーが有名である。天文学では各地に天文台が作られ、大地が球形であることも知られていた。ヒジュラの年(621)を元年とした太陰暦であるイスラム暦は、13世紀の元の郭守敬の授時暦などに影響を与えている。
文学では有名な「アラビアン=ナイト(千夜一夜物語)」が8世紀頃に成立し、16世紀頃に今の形を作った。詩ではフィルドゥーシーが「シャー=ナーメ」をガズナ朝マフムードに奉じた。セルジューク時代には数学者・天文学者でもあるオマル=ハイヤームが「ルバイヤート」を著した。その後イル=ハン国時代にサアディーらが出ている。
美術ではイスラム教が偶像崇拝を禁じたため、建築が発達した。ビザンツ建築の影響を受け、ドームとミナレット(尖塔)を持つモスクが各地に建てられた。スペインのグラナダにはアルハンブラ宮殿が代表作として有名である。モスクや宮殿の内部のアラベスクは幾何学文様の粋を示している。また書物の装飾や挿絵に使われたミニアテュールが9世紀のアッバース朝宮廷で発達し、その後インドにも流行した。