エレファント

エレファント デラックス版 [DVD]

エレファント デラックス版 [DVD]

 「グット・ウィル・ハンティング」の監督、ガス=ヴァン=サントの映画。カンヌでパルムドールもとっている。
 1999年のコロラド州で起こったコロンバイン高校銃乱射事件についての映画。同じ事件を扱ったものとして、マイケル=ムーア監督の「ボーリング・フォー・コロンバイン」がありました。こちらの映画では、当時事件の原因としてメディアが報道していた、マリリン=マンソンの影響だという風潮に、疑問を投げかけている。それなら原因は二人が直前に行っていた「ボーリング」だろってね。
 こちらの作品は、まったく趣が違います。前半というか大半は、普通の高校生の日常。酒を飲んでる父親のせいで遅刻して怒られる生徒や、写真に没頭している生徒、スタイルを維持するためか食べてすぐに吐く女子生徒、「親友」という言葉で縛り付けてそれから逃れられない女子生徒、ダサクて冴えない女子生徒、授業中いじめられう生徒、学校で人気のイケメン、などなど。こういった中で事件は起こった。
 この映画も「事件の原因はなんだ?」という問いに反発している。学校には人気者もいるし嫌われ者もいる。そういう日常の中で事件が起こったように描かれていた。事件を起こした生徒はいじめられていたが、そういやそこを殊更強調する感じはなかったなぁ。ちらっとって感じか。
 先日読んだ「今こそアーレントを読み直す」にこんな部分がある。

「若者の心の中に、これまでの常識では理解できない闇が広がっているのではないか。現代の病理だ」〜こうした意味での「心の闇」を問題にするのは全くもって無意味なことである。〜人の「心の中」のことは基本的に他人にはわからないので、理由が見あたる場合でも本当に理解できる理由かどうかわからない。〜ほとんどの人は「あんな奴殺してやりたい」とか不埒な欲望を「心の中」で抱いたことが少なからずあるだろうが、それが実現されるべき正当な欲望だと、公言したりしようとしない。公的領域においては、「仮面」を被って、「良き市民」という役を演じるべきであることを、何となく感覚的にわかっているからだ。

 もちろん理由は知りたい。関係者ならなおさらだ。同じことが起こって欲しくないし、原因を知りたいからだ。しかし大概、その理由は1つではない。いくつも重なっており、どれか1つが欠けていたら起こらなかったかもしれない。わかりやすく1つにすることが問題なのかもしれない。
 この映画では1つだけ原因を示唆しているように思う。それは孤独だ。広い教室ですすり泣く生徒、体育館を1人で歩く生徒、何より取り方、1人しかピントが合っていないシーンが多く、人はたくさんいるのに。これこそが孤独。