ヒトラー〜最後の12日間〜

ヒトラー~最期の12日間~スタンダード・エディション [DVD]

ヒトラー~最期の12日間~スタンダード・エディション [DVD]

 W.W.2の映画でユダヤ人迫害系のあんまりひどくないやつを探していて見つけた映画。なぜか借りる前に、買ってしまった。失敗。
 ヒトラーがベルリンの地下にこもってから自殺するまでの12日間を追っている。主人公は個人秘書だったユンゲという女性。実際の史実に基づいて作られているようだ。地下にこもってからのヒトラーの混乱と平穏、側近の人々の抵抗とあきらめ、ベルリン市民の様子などを、まざまざと描き出していた。ドイツではヒトラーを肯定的に描くことは不可能だろうが、1人の人間としてのヒトラーを感じることができた。また彼女(のちに結婚)だったエヴァの覚悟も。1人の男性としてヒトラーを愛していたと感じた。
 「ヒトラーは人間ではない」とするのは簡単だ。彼は悪い意味で特別だったとし、自分とは違うと考えればいいだけだから。しかしそれでは過去を乗り越えたことにはならないと思う。彼も1人の人間で、少なくとも十数年は人々の心を奪っていたのだから。アーレントが「イェルサレムアイヒマン」で指摘しているように、アイヒマンは「単に上の命令に従っただけの凡庸な官僚で、悪の無思想性、悪の陳腐さを持った人間でしかなく、反ユダヤ主義者でもなかった」わけだ、ヒトラーもそうだったとは言わないが、良くも悪くも1人の人間だった。誰も逆らわず、誰も止められなかった、そして彼が暴走した。
 ヒトラーを批判することは安易である。それ以上のことをしたから。けれど、その批判は同時に自分たちにも向けられる。「あの場にいて、止められたか?」と。残念ながら途中で銃殺された側近のように、抵抗しても無駄となる。側近なんだからヒトラーを殺しちゃえばよかったのに…、って思って見ていたが、それは不可能だったのだろう。大半の側近が一度は彼に心を奪われているから。ゲッペルス一家の最後がそれを物語っていた。余りにも残酷だったが、ゲッペルス夫人の意志の固さは尋常じゃなかった。決して手を結ばなかったし。
 最後のユンゲ本人のメッセージが心に残った。「若かったというのはいい訳にならない。目を見開いていれば気づけたのだ」。大概そうである。「目を見開いていれば」ね。けど、人は結構目をつむる。いじめが学校だけでなく会社や社会全体で起ころうと、集団的自衛権を無作法で変更しようと、貧困が拡大していようと、パレスティナで暴動が起こっていようと、地震原発メルトダウンしていようと。確かに知ろうとしなくてはわからないものばかり。ただでさえ、余裕がない現代社会、自分に関係がなければ「目をつむる」、そちらのほうが幸せだし「平穏」である。しかしその積み重ねに、W.W.2のドイツがあったのではなかったのか。「目を見開く」とは「知ろうとすること」だ、何が起こっているかを。それを改めて考えさせられた。
 残念ながら授業では使えなそう。やっぱ「ライフイズビューティフル」かな。